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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1437号 判決

控訴人 江戸川映画株式会社

被控訴人 富田留吉

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は、主交第一項同旨の判決を求めた。

事実並に証拠の関係は、

新な証拠として、被控訴代理人において、当審における証人藤木二幸の供述を援用すると述べ、控訴代理人において、当審における証人中条与市、三浦光、山内俊英の各供述を援用すると述べた外、すべて原判決の事実に摘示するとおりであるから、ここにこれを引用する。

理由

原判決末尾添附の物件目録記載の建物(以下本件建物と呼ぶ)が、控訴会社の所有に属した事実並に昭和二十八年六月五日迄に被控訴人から控訴会社え金二百万円が交付された事実は、当事者間に争がない。

しかして、成立に争のない甲第一号証、同第四号証の二、乙第四号証の一、乙第八号証、原審(第一、二回)並びに当審証人藤木二幸の供述により真正に成立したことが認められる甲第二号証、同第三号証の一、二、同第四号証の一、三(但し、甲第二号証中の村上名下の印影及び社印、甲第三号証の二中の村上名下の印影及び消印、甲第四号証の三の委任者欄の署名捺印が孰れも真正に成立したことは当事者間に争いがない)、原審(第一、二回)並に当審証人藤木二幸、原審における被控訴本人の各供述を綜合すれば、次の事実が存在したことが認められる。

即ち、控訴会社は金融の必要に迫られ、昭和二十八年四月頃訴外藤木二幸に本件建物を担保に供して他より金借方の斡旋を依頼し、藤木はこれに応じて被控訴人を控訴会社に紹介し、昭和二十八年五月二十五日控訴会社と被控訴人との間に金二百万円の貸借の話合が成立し、控訴会社は右二百万円の担保として本件建物を被控訴人に売渡して所有権を移転することを承諾し、同日受領した金五十万円を内金とし、六月五日迄に買戻約款附売渡契約をする旨契約し、その旨の契約書(甲第二号証)を被控訴人へ差入れた。右契約に基き六月五日被控訴人は控訴会社え残金百五十万円を渡し、控訴会社は、被控訴人から借受けた金二百万円の債務の担保の方法として、本件建物を控訴人に代金二百万円で売渡し、これが代金は右債務と相殺して決済を了し、控訴会社から被控訴人に対し本件建物について売買を原因とする所有権移転登記手続をなすことを約し、但し控訴会社において同年八月三日迄に買戻をなし得る特約を附し、若し右期限迄に控訴会社が買戻代金の提供をしなかつた場合は、控訴会社は買戻権を喪失し本件建物を被控訴人に明渡すことを約した事実、控訴会社は右買戻代金支払の為め、同日振出日附、満期昭和二十八年八月三日と定めた約束手形一通(乙第四号証の一)を振出交付した事実、その際、控訴会社から被控訴人に対し買戻期限迄は短期間であるから、所有権移転登記の費用、税金等を節約し、万一控訴会社が買戻期限迄に買戻代金を支払うことが出来ないときは登記することにして、登記に必要な書類は藤木に預け、何時にても登記出来るようにするとの控訴会社の希望があり、被控訴人もこれを容れ、控訴会社から登記済権利証、委任状、印鑑証明書等を藤木に預けた事実、控訴会社は右期限迄に買戻代金の調達が出来なかつた為め、被控訴人に懇請して再参期限の延期を受け、最後は昭和二十八年九月七日と定められたが結局控訴会社において買戻代金の調達が出来ずこれを徒過するに至つた事実が存在する。

控訴代理人は、昭和二十八年五月二十五日附の契約書(甲二号証)は控訴会社の関知しないものであると主張するが、同書面中控訴会社代表者村上千賀良名下の印影及び社印の真正に成立したことは控訴人の認めるところであり、又原審(第一回)並に当審証人藤木二幸の供述によれば、同契約書は控訴会社代表者村上千賀良が内容了解の上自ら捺印した事実が認められるから、控訴人の右主張は到底採用に値しない。

原審並に当審証人三浦光、中条与市、原審証人村上千賀良、山口与八郎、当審証人山内俊英の各供述中前記認定に反する部分は、前記認定に供した資料に照らして採用し難く、その他控訴人の立証によるも前記認定を覆し難い。

前記認定のとおり、一旦定められた約定の買戻期限を当事者の合意により再参延期した事実が存在するが、右は前顕資料によれば、法律に暗い当事者のなした行為と考えられ、このような買戻期限の延期は民法第五百八十条第二項により効力がないが、既に成立した買戻約款附売買契約の効力には何等の影響を及ぼすものでもなく、又前顕資料によれば、控訴会社は買戻期限の延期を受けた際、被控訴人に対し利息名義で月七分又は月一割の割合の金員を支払つた事実が存在することが認められるが、右は買戻期間の延期に対する対価として支払われたものと解するを相当とし、同事実あればとて既に成立した買戻約款附売買契約の存在を認定する妨げとはならない。

よつて控訴人の抗弁について判断するに、

(一)、控訴人は、本件建物は控訴会社の全財産に該当し、これを特別の株主総会にも諮らず、単に株式会社の代表者が処分しても、その処分行為は無効であると主張するが、控訴会社の目的である営業が、「映画の上映並にこれに附随する行為」であることは、その自ら認めるところである。

しかして、営業の譲渡とは、社会的活力ある有機体としての営業であつて、単なる営業財産の譲渡ではない。従て本件建物の譲渡は、単なる営業財産の譲渡で、営業の譲渡と目すべきではないから、これが譲渡には株主総会の特別決議を必要としないものと考える。仮に、右財産が控訴会社の重要な財産であつたとしても、重要な財産の譲渡について、株主総会の特別決議を要する旨の特別規定はないから、これを必要としないものと考える。右と異る見解を前提とする控訴人のこの点の主張は採用しない。

(二)、控訴人は、本件売買は会社の業務行為の範囲外であるから無効であると主張するが、会社が金融の為めその営業財産を担保に供して金借し、その担保の方法として買戻約款附売買契約を締結することは、会社の目的である業務の範囲に属するものと認むべく、本件売買契約は正に右事例の一に該当するから、控訴人のこの点の主張は採用し難い。

(三)、控訴人の本件売買契約が民法第九十条によつて無効であるとの主張について、その理由がないことは、原判決がその理由中(原判決六枚目裏十行以下七枚目七行目迄)に説示するとおりであるから、ここにこれを引用する。

しからば、控訴会社は被控訴人に対し昭和二十八年六月五日の売買に基き本件建物の所有権移転登記手続をなし且これを明渡すべき義務があり、且原審証人三浦光、山口与八郎当審証人山内俊英の各供述を綜合すれば、控訴会社は昭和二十八年十一月以降本件建物を一ケ月金十万円の賃料で他に賃貸している事実が認められるから、他に特別の事情の認められない本件においては、右賃料額は相当賃料額と認むべきであるから、控訴会社に対する本件訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和二十八年十月十四日以降本件建物明渡済迄一ケ月金十万円の割合による損害金支払の義務があるものと云わなければならない。

よつて、当裁判所とその所見を一にして、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第一項、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牛山要 尾後貫荘太郎 岡崎隆)

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